薄氷
思うということは、それを望んでいる自分がいるということだ。

認めたくないという反発心をも含めて、心の有り様をただ見つめている。
あまり他の人としゃべる機会がないので、自分との対話は生活の一部だ。

季節は夏だった、と記憶している。たしか自分も彼も半袖の制服を着ていたから。

一回だけ、洸暉とデートをした。デートと言えるのかは分からないけど、それらしきものだ。
彼が運転するバイクに乗って、二人で隣の市まで映画を観に行った。

洸暉との逢瀬はつねに放課後だった。
つまり学校に行かない日は彼とも会わないのだが、三年生ともなると、夏休みだろうと土曜日だろうと、講習だ受験対策講座だ模試だと学校に通うことになる。

洸暉は私生活(タバコに不純異性交遊に道路交通法違反…)はともかく、表立って校則を破る真似はしなかった。
基本的に陽澄以外の他者と関わらないという孤独癖こそあるものの、表面上、素行に難点はない(ように振舞っている)のである。

バイクを所有したからといって、それで通学するようなことはもちろんなく、彼と下校するときは相変わらず自転車の荷台に揺られていた。
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