薄氷
シャッター通りの外れにある、古びた小さな建物だった。
採光の少ない閉鎖的な造りは、なるほど映画館といわれればそう見えなくもないが。

古色蒼然とした外観に薄暗い雰囲気があいまって、お化け屋敷を連想してしまう。
あるいは男性がこっそり入り口をくぐるいかがわしい店だろうか。

陽澄が知っている映画館のイメージとは、何もかも違っていた。広々した空間で、設備は新しく清潔でワクワクする場所、のはずだった。

無意識に期待していた自分の甘さを、またも思い知らされる。

洸暉はといえば、バイクを路肩に停めてロックをかけている。
こちらにちらりと促すような視線を投げて、年季の入った曇りガラスのドアを押し開けた。

彼に続いて中に足を踏み入れると、昭和にタイムスリップした感覚に襲われた。

すべてが時代めいて古びている。薄暗い照明のなかで、セピア色に目に映った。

小さなチケットカウンター(木製だ)に、仏頂面の老人が置物のように座っていた。
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