薄氷

チケット二枚、とこちらも無愛想ではひけをとらない洸暉が告げる。

チケットは一人800円だった。
相場より安いのだろうけど、800円ならDVDをレンタルしたほうがよっぽどお得な気がする。

彼が代金を払うと、台紙からちぎれる音に次いで、わら半紙のような粗悪な紙のチケットが、カウンターのむこうからよこされた。

一枚渡されて、「払うよ」と申し出たが、いいよ、と返された。
「俺が誘ったから」

それなら遠慮なくお言葉に甘えることにした。
今のやりとりはちょっとカップルっぽいな、と思いながら。

次の上映は２０分後(それでも日に何度か上映しているらしい)とのことだった。
物珍しさも出てきて、狭いロビーを彼と見て歩く。壁には色褪せた古い映画のポスターが貼られていた。

『ブリキの太鼓』『マイ ライフ アズ ア ドッグ』『気狂いピエロ』…この映画館の上映作品なんだろうか。

経営者が趣味でやっていると聞いたけど、仮に施設の老朽化等がなくても、黒字経営は難しそうだ。

旧作でも、たとえば『E.T.』とか『STAR WARS』とか、そんな作品を上映したら、家族連れが来るかもしれないのに。