それは、心からのキス
 
 
今日も、久しぶりに弘人と仕事終わりで合流し食事の約束をしていた。お互い外食よりも家での食事を好むほうだ。今回は私の一人暮らしのワンルームに招き、お鍋を囲む。


「美空――」


 またあのトーンで弘人が私の名前を呼ぶ。私は甘んじて、それからのことを受け入れる。


 唇が触れるだけだった行為は、八十回目のときからお互いの口内へも侵食し、もうキスとしか言えないものに変化していた。

 変化のきっかけはわからない。ただ、私が問うた日のことでもあった。なんで、と。一度眉を寄せた弘人が、私を後頭部から引き寄せた。


 いつからか、ついてたよ、とも言われなくなった。言われていたときも、私の唇には何もついていなかったことなんて、もう解っていて。

 弘人は狡い男だと思う。……勿論私も。

 幸せだと、それだけをずっと感じていられるはずはないことも解っていた。
 純粋な心にも、欲深い心にも、もうこの関係は限界で。


 今日は、あの最初の夜から百回目の。


「終わらないで」


 唇が触れ合ったまま告げた。


「離れていかないで」
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