周王 龍巳を怒らせるな
厘は、ヤクザ組長でこの辺一帯を仕切っている男だ。
歳は龍巳より五つ上で、身体も龍巳より大きく見た目を怖い。

なのに、龍巳の方がはるかに恐ろしいのだ。

オーラだけで相手を地獄に突き落とすような、言葉にできない恐ろしさがあるのだ。

「ところでこの女は、キングに何したの?」
「僕にもよく……
今回は龍巳様ではなく、穂華さん絡みのようです」
「あーキングの女か。
ねぇ、マジなの?キング」
「え?」
「穂華って子のこと」

「マジだよ」
気づくとドアを開け、もたれかかった龍巳がいた。
煙草を吹かし、先程と同じ恐ろしい雰囲気を醸し出している。

「え?」
「なんか文句あんの?」
「ありませんよ。ただ…キングが女に本気になるなんて初めてなので……」
龍巳の恐ろしい雰囲気にも、まっすぐ冷静に対応する。
「そうだね。穂華に手を出したら……」
「大丈夫ですよ。そんな恐ろしいことしませんよ。俺はまだ、死ぬわけにはいかないので…」

「まぁ…そうだよね。厘は賢いもんね」
「こえー、男…」
少しだけ微笑み、社長室に戻った龍巳の背中を見て、厘が呟いたのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃の、穂華。
「長月さん!
書類、まだ~!」
「あ、はい!
…………これです」
「遅いわよ!」
先輩社員・高美にバッと乱暴に書類を掴み取られ、軽く睨まれた。

「すみません!」
穂華は頭を下げて、自分の席に戻った。
悔しいのに、言い返せない…
自分の弱さに腹がたっていた。

「たっちゃんの声…聞きたいな……」
やはりこんな時は、恋人の声を聞いて力を充電したい。

穂華は龍巳に電話をかけたのだった。
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