雨の日、彼の秘



今日は雨の日。

だから教室は湿気でじめじめしてる。


「だからここにエックスを代入して…」


今日も数学の授業に追いつけない私、桃姫
紅葉(モモヒメ クレハ)は、


現在シャーペンをおひげのように鼻と口の間にはさんでいます。


けれどやっぱり退屈で…


「ハイ先生!」


ピンッと手をあげて先生にアピール。

すると先生は、「どうしましたか?桃姫さん」と淡々とした声で私の名前を呼んだ。


「授業がめっちゃくちゃつまんないので、紅葉ねます!」


「あっ!ちゃんと事前に言ったんだから減点しないでよーー」


そう言って返事を待たずに机に顔を伏せると、しばらくたって「はぁ」と先生のため息が近くで聞こえてくる。


「減点です」


ぺしっと軽く頭をたたかれて、バッと顔をあげた。


…たたかなくったっていいのに


「雨の日くらい優しくしてよー」


「関係ありません」


ふん、先生はいつも紅葉に冷たいんだから。


紅葉が口を膨らませても先生は無表情のままだし。

ちょっとくらい笑ったりしたらいいのに。


黒のメガネをかけてて、髪も真っ黒。

いつも無表情で、笑ったところなんて見たことない、笹倉 碧(ササクラ アオ)先生。


紅葉はこの人が笑った顔を、まだ一度も見たことがない。

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