信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
樹と彩夏
再び動き始める
一週間後、樹は再び北海道にいた。
最終便で新千歳空港に着いたが、遅い時間の訪問は禁止だと江本に言われたから
その夜はホテルに泊まり、牧場に行くのは我慢した。
翌朝、早く目覚めた樹は、黒いSUVのレンタカーを借りて牧場へ走らせた。
運転席の窓を全開にすると爽やかな5月の風が入ってくる。
こんな爽快な気分は久しぶりだ。途中で飲んだ缶コーヒーまで美味しく感じる。
札幌から新千歳に向かって道央自動車道を進む。途中で降りると後は山道だ。
少し走ると森下牧場の案内看板が見えた。
樹の記憶では、子供の頃は小さな木の看板だったと思うのだが、
今は観光牧場も兼ねているので、イラストの目立つ大きな看板だ。
矢印に従ってしばらく行くと、急に視界が開けた。
一面に緑が広がる。どこまで続くのだろう。
サイロがいくつか草原に点在し、ポプラ並木は山際まで続くようだ。
観光牧場らしいウッドハウスが見える。それとは反対側の奥に、森下家の母屋が見えた。
渋いレンガ造りの洋館だ。
祖父と遊びに来た時より古びてはいるが、風雪に耐えてきた風格のある家だ。
母屋のすぐ側にあるパーキングに車を止めて、暫く車内から景色を眺めた。