信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
それでも10代の頃は彩夏だって夢を見ていた。
中学生の頃から高畑雄一郎には何度も約束させられた。
『さやちゃんは孫のお嫁さんになってくれるね』
この言葉は彩夏にとって甘い呪縛となっていった。
将来の夫となる、9歳年上の樹は
田舎の牧場で暮らす彩夏にとって、まるで王子様だった。
東京に住み、いい大学を出て留学し、やがて祖父の後を継いで社長になる…
なんて恵まれた人だろう。
時々彩夏を訪ねてくれる会社の秘書だという江本郁子は
姉のように優しく接してくれた。それに色々と樹の事を教えてくれた。
どんな勉強をしているか、好きな食べ物は何か…
人伝とはいえ、樹の事を知っていくのは嬉しかった。
『いつか、迎えに来てくれるはず』
そう思っていたのは20歳ごろまでか…
樹が紹介される新聞や経済紙の記事はすべて目を通す様にした。
彼の為になればと、獣医学部の勉強の合間に経済の勉強もした。
やがて、彼の記事が良い物だけではない事に気付いてしまった。
女性週刊誌で派手な女性関係の記事が出るようになったのだ。
彩夏は、女性関係のスキャンダルでも目を通す事にしていた。
自分より随分大人なのだから、女の人がいるのは仕方が無いと
無理やり思うようにした。
本当は嫌なのに、気持ちに蓋をしてしまったのだ。