信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

交通事故で両親を亡くしたが、その事故で奇跡的に生き残ったのが彩夏だった。

 札幌市内から、祖父母のいる牧場に引き取られてきたばかりの彩夏は、
その手にしっかりとぬいぐるみを握っていた。
それが無いと昼間は不安でパニックになり夜も眠れないらしいと
診療所の医師である父親から聞いたと、俊一が言っていた。

『こんなに小さいのに…』


 9歳年上の樹から見たらお人形のように小さく愛らしい存在だったが、
その子の抱えた悲しみの大きさは彼の想像以上だったろう。

 幼い兄妹がいる俊一は幼児の扱いが上手で、
しゃがんで話しかけたりおやつを食べさせたりして世話を焼いていた。
樹は、どう接して良いかわからず、ただ黙ってその子の手を握ってやった。

その子の片手はぬいぐるみ、もう片方は樹と繋がっていた。



 北海道で夏を過ごさなくなってどれくらい過ぎた頃だったか…
祖父から、将来の結婚相手の候補に森下彩夏を選んだと聞いたような気がする。
候補(・・)など、どうでも良かったし祖父の馬好きが高じたのだろうと
適当な返事をしておいた。


それが現実の物となったのは、祖父が病に倒れた時だった。


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