信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
「今日は、あなたに提案があってきたの。」
「何ですか?」
「主人が、高畑コーポレーションにとても興味があるのは知ってるでしょ?」
「それは…あなたが再婚する前からですから。」
樹は暗に、敵対する会社のCEOと再婚した事を非難した。
るい子は細い眉を尖らせた。
「私は、会社の事や仕事には口出ししない主義よ。
あなた達のお父さんと結婚してた時からずっとね。」
るい子は赤い唇を不満げに歪めた。
「誤解しないで欲しいわ。」
「そのポリシーを曲げてまで、どうしてここに来たんです?」
樹は面倒な話の時は、腕を組むクセがある。
社長席から、るい子と祥を交互に見比べながら腕を組んだ。
この部屋に入った時から一言も口をきかない祥にも内心苛立っていた。
「あのね…。」
「お母さん、僕が話ます。」
掠れた声で、祥が母の話を止めた。
るい子も、祥に任せようと思ったのか、口を噤んだ。
「突然、押しかけて申し訳ありません。実は…。」
なるべく感情を込めないように淡々と祥は話し出した。
るい子の再婚相手のCEOが、高畑コーポレーションを手に入れようと
目論んでいるというのだ。
祖父が社長の時代から高畑コーポレーションの経営権取得を目指していたが、
祖父が亡くなった後のごたごたを知っていたのだろう、
樹がまだ実権を手にしていないと判断して
会社の弱体化をはかりTOBを仕掛けてくるらしい。