信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 二人の姿が社長室から消えると、樹はソファに移動し深く腰掛けた。
数日の疲れが身体中に押し寄せてくる。
眉間を指でぐりぐりと揉んでいたら、江本が社長室に入ってきた。

「社長…。」
「少しは聞こえたか…。」
フーっと息を吐くと、樹は次々に江本と、江本のサブを勤めている石川に指示を出した。

「…それから、江本、古参の役員を一人ピックアップしてくれ。
 俺とお前とその役員で何社か付き合いの古い所を回る。」
「分かりました。」
「石川は、相手の出方を探れ。」
「了解です。」

 石川卓也(いしかわたくや)は若いが情報収集に長けている。
これで迎え撃つ準備は整った。後は…
彩夏にも一言、『株を売るな』と伝えておこう。

 ようやく、長い一日が終わった。
だが、仕事はまた忙しくなりそうだ。
北海道に行くのはいつになるか、今の樹には皆目分からない。

樹は初めて、彩夏を恋しいと思った。



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