信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
樹が早朝に森下牧場を発った日の夜、本人からいきなり電話があった。
これまでいつも江本からの連絡が当たり前だったから、彩夏は焦った。
「もしもし…。」
スマホを持つ手が汗ばんでいる。
「彩夏。俺だ。」
「はい…。」
いきなり名前呼び…。
「昨夜、江本から緊急連絡が入ったから、今朝は話も出来ず申し訳ない。」
「いえ…お仕事でしたらお気になさらず。」
「また、都合がついたら連絡する。」
「はい。」
「後、君の名義の高畑の株は、絶対売らないように。」
「…え?」
「じゃあ。」
疑問に思って尋ねようとしたら、直ぐに電話は切られた。
「何なの?あれ…。」
あの人の性格は、慎重なのかせっかちなのか良く判らない。
随分人を待たせたと思ったら、いきなり来て抱くだけ抱いて
さっさと帰ってしまった。
「で、結局、株って何よ。離婚届けはどうなったのよ。」
彩夏には分からない事だらけだ。
だが、取り敢えず嵐は去った。
また明日からいつも通りの毎日を送ればいいだけだ。
妊娠している事を願って、それだけを楽しみに過ごそう。