信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
結局、樹は一週間ほど入院した。
風邪のウイルスがストレスと激務に疲れ切ったいた身体に
良くない作用をもたらしたようで、
樹の症状は心筋炎一歩手前まで重症化していた。
江本には泣かれ、祥は毎日のように見舞いに訪れ、
挙句、母のるい子まで病室で看病すると言い出す始末だ。
周りから心配される事に慣れていない樹は戸惑うばかりだった。
いよいよ退院する前日、江本からしばらく休暇を取るように進言された。
「いい機会です。ゆっくりお休みください。」
「だが、仕事が…。」
「若手が頑張ってくれてます。無事、TOBを乗り切った事で
株価も安定している今が、休暇を取られる時期としてはベストです。」
「ああ…。」
休暇を取るとしても、樹にはその過ごし方が解らない。
「どうぞ、手配しておきましたので明日から北海道へ行ってください。」
「北海道…。じいさんの別荘か?あそこは何年も使ってないぞ。」
はあ~と、聞こえよがしに江本はため息をついた。
「彩夏さんと、牧場で過ごすんです!」
「………。」
「沈黙は何も生みだしませんよ。」
「江本…。」
「気になっていらっしゃるんでしょう、彩夏さんの事。」
「ああ…。」
「申し訳ございませんが、ご不在の間にデスクを確認した時、
茶封筒を見てしまいました。」
彩夏に渡された離婚届だ。
あの怒涛の6月に、もしも会社に何かあった時の為にと
彩夏に財産が残せるよう、サインして弁護士に財産分与の書類を作らせたのだ。
「彩夏さんには体調の事、お伝えしました。
森下牧場で現場復帰出来る程回復するまで、受け入れて下さるそうです。」
「分かった…。すまない。」
「いえ…樹さん、私が出来るのはここまでです。後は、ご自分で…。」
「そうだな。彼女の心を掴めたら…。」
「結婚生活は色んなパターンがあっていいじゃないですか、
遠距離だろうと、週末婚だろうと。
お二人でゆっくりお話しして下さい。」
「ありがとう。」