信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
その日は札幌市内のホテルで学会があり、
学生時代の仲間と久しぶりに少し飲む予定にしていた。
いつもは運転があるからアルコールは控えるのだが、
今夜は近所に住む金子俊一が、役場の出張で札幌に仕事がある為、送り迎えをしてくれる事になっていた。
彩夏は安心してほんの少しビールを飲んだ。8時頃、ホテルの前まで俊一が迎えに来てくれる筈だ。
時間を見計らって、上階のラウンジからロビーに降りてきたところで、
見慣れた美しい夫人の姿が見えた。夜会巻き風の独特の髪形ですぐに分かった。
「長谷川さん! 綾音さん!」
「あら~、彩夏ちゃんじゃないの。」
50代とは思えない華やかな服装の長谷川綾音と偶然出会った。
綾音は動物愛護家で、いつも動物に囲まれた生活をしている。
裕福な暮らしぶりもあって、何匹も捨てられた犬や猫の世話を買って出てくれた人だ。
「こんばんは、綾音さん。ご無沙汰しています。」
「ホントよ、我が家の可愛い子供たちの顔を見に来てくれなくちゃ。」
「了解です。近いうちに健康チェックに伺いますね。
綾音さんはお変わりありませんか?」
「元気よ~。今日も、主人のお仲間とこれから会うの。」
「長谷川様にもよろしくお伝えください。」
「主人に会っていかない?」
「今日はもうすぐ迎えが来るので…次回は必ず、ご挨拶いたします。」
「あ、来週、シンポジウムでの講演があったわね。」
「はい、短い時間ですが講演させていただけるんです。」
「彩夏ちゃんが頑張ってくれて…嬉しいわ。
お祖父様も喜んでいらっしゃる事でしょう。」
「綾音さん…。」
祖父の長年の顧客であった長谷川綾音と、少ししんみり話していると、ふいに
綾音に声を掛けてきた人物がいた。