信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
樹の世界は、また色を失った。
彼は、深く考える事を放棄して離婚届を提出してしまった。
彩夏に固執すればする程、彼女が遠くに行ってしまう気がして離婚を選んだ。
今、彼の胸にあるのはひと夏の鮮やかな思い出だけだ。
スキャンダルを売り込んだ専務派は一掃した。
名前も知らないタレントは名誉棄損で訴えてやった。
樹の心はすさんでいたが、誰も荒ぶる心を癒してはくれなかった。
彩夏でなければダメなのだ。
大自然の中で、色とりどりの風景に囲まれ、動植物を愛している彼女。
彩夏の豊かな心でなければ、樹を癒す事は出来ないのだ。
後悔しても遅いのは分かっていた。
何度もチャンスはあったのに、結論を出すのが怖くて先送りしてしまった。
仕事も彩夏も、自分には両方ともが必要なのだと
贅沢にも二つを求めてしまったのが間違いだったのだろうか。
好きだからこそ、自分の方から譲らなければいけない事だってあったのだ。
小さい子供でも分かりそうな現実に、樹はやっと気付いた。
大切な人を失って、身を切る痛みを味わって、やっと気が付いたのだ。
彩夏を求める心は何ものにも変え難い。
欲しいものを手に入れる為には、決めるべき時というものがある。
樹は間違えたのだ。欲しいものを欲しいというタイミングを。