信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
半年はあっという間だった。
一年は、気が付けば過ぎ去っていた。
2016年の夏を迎えた。猛暑の夏だ。
良く晴れた日が続き、関東平野は乾ききっていた。
高層ビルの中では感じないが、東京でも気温が35度を超す日があるらしい。
テレビの気象情報では、逆に北日本は雨が多いと放送していたが、
樹は北の情報は意識的に避けていた。
2年近く経っても、彩夏に繋がる事からは目をそらし続けていた。
「社長、そろそろお時間です。」
「今、行く…。」
樹の社長室は相変わらず、モノトーンの世界だった。
社長付の秘書は江本郁子から石川卓也に変わっていた。
彩夏との離婚が成立した後、江本は一身上の都合を理由に退社していた。
長く独身で働いて来た江本も50を過ぎるのを理由に、
ビジネスの最前線から去りたいと言ってきたのだ。
樹は引き止めなかった。
世話になった江本に、ゆっくりと休んで欲しかったからだ。
それに、彼女も彩夏の思い出に繋がっている…
江本の顔を見れば思い出す事ばかりだった。
後悔しか浮かんでこないが、それでも大切な思い出だ。
江本が自分の元を去るのは、彩夏の事も関係していたのだろう。
もう、樹に見切りをつけたのかもしれない。
石川は江本の後をしっかり引き継いでくれた。
システム統括部を任せる祥とも馬が合うらしく、
仕事上だけでなく、友人としても付き合っているらしい。
樹の周りは少しずつ変化していた。
彼だけは2年前のままだった。