ホラー短編集
銃口
12畳のフローリングで若い夫婦が互いに拳銃を持ち、対峙していた。
赤ん坊の激しい泣き声が、家中に響き渡っている。
女が拳銃を手に入れたのは3日前。
男と共通の友人を介してだった。
お金さえ積めば拳銃を手に入れることはいとも容易く、女はその冷たく重たい感覚を不思議な気持ちで味わっていた。
同じ時期、男も同じ友人を介して拳銃を手に入れていた。
互いに互いを憎み合いはじめたのは、結婚してすぐのことだった。
元々自分たちの意思で結婚したわけではなく、親同士の決めた結婚であったため、愛情などさほど感じてはいなかったのだ。
それでも、せっかく夫婦になったのだからと、毎晩寝る前にはお互いの長所や短所を話、できるだけ仲良くするように心がけた。
しかし、ある日の夜そんな生活に決定的なヒビが入ってしまう。
女は聴覚が優れており、男が家の外に出て携帯電話を使用している内容が耳に入ってきた。
それは別の女性へ愛を告げる言葉であり、また自分に黙って逢い引きをしようという約束であった。
一方、男は嗅覚が優れており、ある日夜遅くに帰宅した女の体から、嗅いだ事のない石鹸の匂いがすることに気がついた。
その石鹸の香りに混じり、男もののヘアジェルの匂いが女の体からほのかに漂っていた。
けれど、2人からすれば希望した結婚ではなかったため、そうなることはある程度予想できていた。
現に、相手に浮気されているとわかった時も、さほどショックを受けることはなかったのだ。
しかし……。
女は妊娠した。
男の子供か、浮気相手の子供か。
それがわからないまま、2人は夫婦を演じ続けた。
そして、出産。
互いに愛情がなくとも、赤ん坊は愛らしかった。
その泣き声、柔らかな肌、小さな体。
男も、その小さな宝物を心底愛しいと感じた。
このままお互いの浮気には目をつむり、幸せに暮らしていこうとさえ、考えていた。
でも、女は違った。
子供を産んですぐ、男へ離婚届を突き付けてきたのだ。
「きっと、この子はあなた子じゃないわ」
「何を根拠にそんなことを言っている!?」
「あたしは母親だもの。そのくらいのことわかるわ。サインと印鑑、お願いね」
引き離される。
ようやく感じた幸せを、この女は壊そうとしている。
そして女は、なかなか決心のつかない男に苛立ちを覚えていた。
そして、今。
2人は同時に、引き金を引いた……。
「本日正午頃、○○県○○市の民家で発砲事件が起きました。拳銃を発砲したのは若い夫婦とみられ、二発の銃弾が生後数カ月の赤ん坊の遺体から発見されました。夫婦は盲目の障害を持っており、発砲後すぐに同じ銃を使用し自殺したとみられています」
誰もいないリビングの中、テレビの音だけがむなしく響いていた。
赤ん坊の激しい泣き声が、家中に響き渡っている。
女が拳銃を手に入れたのは3日前。
男と共通の友人を介してだった。
お金さえ積めば拳銃を手に入れることはいとも容易く、女はその冷たく重たい感覚を不思議な気持ちで味わっていた。
同じ時期、男も同じ友人を介して拳銃を手に入れていた。
互いに互いを憎み合いはじめたのは、結婚してすぐのことだった。
元々自分たちの意思で結婚したわけではなく、親同士の決めた結婚であったため、愛情などさほど感じてはいなかったのだ。
それでも、せっかく夫婦になったのだからと、毎晩寝る前にはお互いの長所や短所を話、できるだけ仲良くするように心がけた。
しかし、ある日の夜そんな生活に決定的なヒビが入ってしまう。
女は聴覚が優れており、男が家の外に出て携帯電話を使用している内容が耳に入ってきた。
それは別の女性へ愛を告げる言葉であり、また自分に黙って逢い引きをしようという約束であった。
一方、男は嗅覚が優れており、ある日夜遅くに帰宅した女の体から、嗅いだ事のない石鹸の匂いがすることに気がついた。
その石鹸の香りに混じり、男もののヘアジェルの匂いが女の体からほのかに漂っていた。
けれど、2人からすれば希望した結婚ではなかったため、そうなることはある程度予想できていた。
現に、相手に浮気されているとわかった時も、さほどショックを受けることはなかったのだ。
しかし……。
女は妊娠した。
男の子供か、浮気相手の子供か。
それがわからないまま、2人は夫婦を演じ続けた。
そして、出産。
互いに愛情がなくとも、赤ん坊は愛らしかった。
その泣き声、柔らかな肌、小さな体。
男も、その小さな宝物を心底愛しいと感じた。
このままお互いの浮気には目をつむり、幸せに暮らしていこうとさえ、考えていた。
でも、女は違った。
子供を産んですぐ、男へ離婚届を突き付けてきたのだ。
「きっと、この子はあなた子じゃないわ」
「何を根拠にそんなことを言っている!?」
「あたしは母親だもの。そのくらいのことわかるわ。サインと印鑑、お願いね」
引き離される。
ようやく感じた幸せを、この女は壊そうとしている。
そして女は、なかなか決心のつかない男に苛立ちを覚えていた。
そして、今。
2人は同時に、引き金を引いた……。
「本日正午頃、○○県○○市の民家で発砲事件が起きました。拳銃を発砲したのは若い夫婦とみられ、二発の銃弾が生後数カ月の赤ん坊の遺体から発見されました。夫婦は盲目の障害を持っており、発砲後すぐに同じ銃を使用し自殺したとみられています」
誰もいないリビングの中、テレビの音だけがむなしく響いていた。