冷徹上司の、甘い秘密。

　求めていた落ち着く香りに顔を上げると、焦ったような顔で肩を上下させる綾人さんの姿。



「……課長？」


「飛成さん？」



　堀井さんも驚いたのか、綾人さんの姿に目を見開いている。


　そんな堀井さんを見てさらに身体を引き寄せた綾人さん。


　……誰が見ているかわからないのにこんなこと！


　しかし出ようにもしっかりと抱き寄せられた身体は離してもらえなくて。



「課長、大丈夫ですからっ」



　やっと離してもらうことができた。


　しかし突然のことに心臓はバクバクと鳴っている。


　落ち着け、私。


　深呼吸をした。



「……堀井さん、うちの部下を口説くのはやめていただきたいとお伝えしたはずですが」


「……えぇ。ですが折角のチャンスを棒に振りたくはないので」


「……」



　ピキ、と綾人さんのこめかみが動いたのを見逃さなかった私。


　怖い、怖すぎる。


　私はそっと口を開いた。



「あ、あのっ……堀井さん、申し訳ございません。私これから先約がありますので、失礼します」


「……男？」



　探るような視線に、周りに人がいないことを確認する。



「……はい。昨日はいないって言いましたが。……恋人とデートなので」



　小声で呟いた"恋人"。


　自分で言っておいて、その響きがちょっと恥ずかしくて下を向いた。



「ははっ、……金山さん」


「……はい？」


「そんな顔、お相手の前以外であまりしないほうがいいですよ」


「……え？」



　そんな変な顔してた！？と思わずペタペタと顔を触る。


　綾人さんがそんな私を自分の後ろに隠した。