冷徹上司の、甘い秘密。



「綾人君はクールでかっこいい顔してるんだから、甘いものなんて嫌いって言ってくれないと困るの!」


「……え、何で?どういうこと?」


「男のくせにスイーツ好きって頭おかしいんじゃないの!?私の理想を崩さないでよ!」


「は?……理想?」


「綾人君の顔は、私の理想そのものなの。だから好きなものも、性格も。全部私の理想でいてもらわないと困るの!」



 言っている意味も、ハルカが怒鳴っている理由も。俺には全く理解できなかった。ただこれ以上一緒にいると危険だと判断した俺は、その場から逃げようとする。


 しかしハルカは逃してくれなくて。



「いつも飲んでるマイボトルの中身はブラックだよね!?」


「……いや、カフェオレかココアだけど。俺ミルクないとコーヒー苦くて飲めないし」


「……嘘でしょ……」



 呆然と立ち尽くすハルカに、俺は何も言えなかった。



「綾人君は甘いココアじゃなくって苦いブラック飲むような大人のかっこいい人だと思ってたのに……」


「いや、言ってる意味がちょっと……」


「だから!」



 ドン!と俺の胸を押したハルカの力は、想像以上に強くて。


 いつも、手を繋ぐ時は折れそうなくらい細くて小さい手だと感じていたのに。


 一度タガが外れたハルカは、もう誰にも止められなかった。

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