冷徹上司の、甘い秘密。
Ninth
*****
「───そんなことがあって、ハルカとはそれっきり自然消滅したんだ。でもハルカが誰かに全部喋って、それが回りに回って。噂だけが一人歩きした状態になった。別に噂程度ならいくらでも良かったんだけどな。友達だと思ってた奴らもどこかよそよそしくなって。それが一番キツかったかも」
「そう、だったんですね」
「それがきっかけで、それまで以上に敏感になった。"俺のイメージを崩せば周りから人が離れていく"って知ってしまったから」
綾人さんの昔話に、何も言葉を返せなかった。
言えばわかってくれる人もいるし、逆に離れていく人もいるだろう。
「それならもう、自分一人の中に留めておいた方が良いと思ったんだ」
その目には諦めが映っていて。儚いその表情に、見ているこちらが切なくなる。そんな私に綾人さんは微笑んだ。
「そんな状態になって、もうどうしようもできなくなったから逆に開き直って普通に大学通ってた。友達なんて呼べる人はほとんどいなくなったけど。ゼミの奴らはそこまで気にしないでくれたからまだ救われたよ」
綾人さんはそのまま手に持ったカフェオレのカップを持ち上げた。
「社会人になってからは俺のイメージを崩さないように、とにかく必死だった。ココア飲むのもやめて、ブラック飲むようになって。でも最初は苦くて飲めたもんじゃなかったよ」
思い出しているのか、表情まで苦そうで。
私も無意識に舌に苦味を感じる。