冷徹上司の、甘い秘密。
「……最初っから」
降参したかのように口を開いた綾人さんに、私は視線を奪われた。
「歩が入社した時から気になってた。綺麗な子だなって。けど直属の上司だし、俺は周りから怖がられてる部分もあったから、歩とどうこうなりたいとかは全く無かったんだ」
「……」
「新人の頃のお前は落ち着かなくて仕事も全然ダメで。それなのに周りのことだけはよく見えてた。それが妙に気になって」
「……怒られるのが嫌で、周りを常に気にしてただけですよ」
あの頃は毎日が必死で。毎日怒号が飛び交っていたこともあり、何かやらかしたら私も怒鳴られるのかと思ったら落ち着かなくて、逆にどうでもいい凡ミスを繰り返していたような覚えがある。ただのポンコツ社員だった。
そういえばその度に、綾人さんは"いいから落ち着け"って言ってくれてたっけ。
「そんなこともありましたね。懐かしいです」
「そうだな」
懐かしい記憶に目を細める。
「他の奴はミスして叱られると、結構泣いたりそこまで沈むか?ってくらいに落ち込んだりで色々と対応に困ることも多かったんだよ」
「確かに、そうですね」
綾人さんに叱られて泣いている女性社員も沢山見てきた。