冷徹上司の、甘い秘密。
「それなのにお前は泣きもせず落ち込みもせずにこっち睨みつけてくるからこっちが対応に困って参った」
「あぁ……多分泣かないように必死に我慢してただけですね。泣いたら負けだと思ってたんで。負けず嫌いなので」
「そういうところが、印象に残ってた」
落ち着きがない、仕事できない、凡ミス、説教されてるのに上司にガン飛ばす……。
言われたことを指を折って確認して、動きを止める。
「……今の話の中に私が好かれる理由ありました?」
あまりのポンコツっぷりに、どう考えても嫌われる要素しかないんだが。
「ははっ、普通は無いかもな」
「酷いっ!」
「それが、他の社員と違って綺麗な顔の割に頭抜けてる奴なんだなって変に印象に残ってた」
「……その節は大変失礼致しました」
謝る私に綾人さんは笑いながらカフェラテを一口飲んだ。
「それから、歩の行動が目につくようになった。最初は危なっかしかったけど仕事も少しずつ良くなってきて。相変わらずミス指摘したら睨まれてたけど。でもそうなったら今度は他の社員からの人気が凄くてな」
「……人気?」
「聞いたことないか?お前のファンだっていう男、結構いるんだよ」
「……白石ちゃんから聞いたことがあるような、ないような」
正直そんな話すっかり忘れていた。私に隠れファンがいるとかいないとか、そんな話だったっけか。
誰かが確か似たような話、していたような気がする。