冷徹上司の、甘い秘密。
「そういえばもうすぐですね。相田の結婚式」
「そうだな。当日晴れるといいんだが」
「大丈夫ですよ。相田は晴れ女ですから」
「なら安心だ」
笑い合って、自然と会話が無くなって。
そのまま目の前に視線を戻す。子ども達の姿をボーッと眺めていると、ポツリと綾人さんが溢す。
「……歩は、子ども好きか?」
「子どもですか?はい、好きです」
可愛いですよね。と頷くと、綾人さんは微笑む。
「こんなこと言ったら気持ち悪いって、引くかもしれないけどさ」
「……?」
「俺、家庭を持つなら相手は歩だ、って決めてるから。歩とでしか考えてないから」
真剣な眼差しが、私の心を射抜く。
はぐ、と声にならない声を飲み込む私に、綾人さんはほんの少し頰を染めた。
「……それは、つまり」
プロポーズですか?
その言葉は、木陰に隠れるように落とされた甘いキスで言えなくて。
まだ付き合い始めたばっかりなのに。もう、私との未来を想像してくれているの?
綾人さんの思い描く未来に、私がいるの?
「まだ付き合いたてだけど。一緒にいればいるほど感じる。俺は歩じゃなきゃダメだって」
「……綾人さん」
「……こんなところで、こんなタイミングで、なんて。……引くか?」
言葉につまり、首を横に振る。
すると腕を引かれて、耳元で綾人さんが呟く。
"俺は、歩と一緒に生きていきたい"
綾人さんの低い声と甘い言葉に頭がクラクラしてしまう。
喧騒の中なのに、ここだけ切り取られたみたいに周りの声も音も何も聞こえなくなって。
「……私も、綾人さんと一緒に生きていきたいです」
恥ずかしさに負けそうになりながら呟くと、綾人さんが一つ、笑う。
その笑顔がとても綺麗で。綾人さんの隣で、その笑顔をずっと見ていたいと思った。
「いつかその時が来たら、もう一度言うから」
私はその言葉に、目に涙を浮かべながら大きく頷いた。