冷徹上司の、甘い秘密。



 人事部に異動してからというもの、時間が合えばお昼になると古巣である営業一課に足を運ぶようになった。


 表向きは眞宏をランチに誘いに行くという名目で、ちらっと綾人さんが見れたら良いなあ、なんて。下心満載だったりもする。


 しばらく私も眞宏も忙しくて、お昼の時間が合わなかったため今日は大分久し振りに連絡を取り、眞宏をランチに誘いに来た。すると



「金山さん!」



 と、眞宏ではない見知った声が後ろから聞こえた。



「あ、白石ちゃん。久しぶり」


「"あ"じゃないですよ金山さん!お久しぶりです!」


「何、どうしたのそんな怖い顔して」



 久し振りに会った白石ちゃんは、何故か怖い顔をしている。その割に挨拶は怠らないあたり、やっぱり面白い子だ。



「何……え、ちょ、どうしたの」



 聞くものの何も言わないままずんずん近付いてくるものだから、何か怒られるのかと思わず身構えた。


 しかし白石ちゃんは目の前まで来ると、何故か私の耳元に顔を寄せる。



「……白石ちゃん?」



 困惑する私を他所に、白石ちゃんは囁くように聞いてきた。



「ずっと聞こうと思ってたんですけど」


「え、うん……何?」


「……やっぱり、金山さんの前では課長って笑うんですか?」


「……は?」



 間抜けな声が出た。拍子抜けしたと言った方が正しいだろうか。


 顔を離した白石ちゃんは、怒っているようなワクワクしているような……なんとも言えない表情で早く言え!と圧力をかけてくる。



 え、というか気になるのそこなの?

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