冷徹上司の、甘い秘密。



「そう言えば、課長がこれ金山に渡しといてって」


「え?」


「お客様から貰ったんだって。他の人の分は好きに取っていけって言ってたけど、金山の分だけ別で取っておいてたみたい。どうせ会うなら渡しとけってさ。自分で渡せばいいのに。恥ずかしかったのかねー。本当、課長ってわかりやすく金山にだけは甘いよね。愛されてるねー」



 手に乗せられた高級店のフィナンシェ。


 それを見て、口元が勝手ににやける。



「毎日さ、給湯室で課長に会うと"コーヒー淹れてくれる人がいなくなった"って言って嘆いてるよ」


「そうなの?」


「うん。でも不思議なんだけどさ、たまに私が給湯室に入るとミルク持ってたりするんだよね。私の顔見た途端慌てたみたいに置くんだけど。課長ってブラック派じゃなかったっけ?」


「ククッ……」


「金山?」



 コーヒー苦手なくせに。そうやって見栄張っちゃって。本当に面白いんだから。



「ううん。なんでもない」



 危ない危ない。思わず笑ってしまった私に、眞宏は不思議そうに首を傾げる。


 それは課長のトップシークレットですから。眞宏にだって教えてあげない。



「でも、課長の話するとやっぱり金山良い顔するよね」


「え?」


「幸せそうで何より」



 安心ように微笑む眞宏に、私も微笑み返す。



「眞宏には負けるよ」


「ははっ、じゃあお互い幸せってことだ」


「そうだね」



 手の中におさまったフィナンシェをもう一度見つめる。


 きっと、綾人さん用にもう一つ別に取っておいているものがあって。それは綾人さんのデスクの中か、既にその胃の中か……。


 それは眞宏も知らないことだろう。


 でも、それでいい。

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