冷徹上司の、甘い秘密。
番外編 愛おしい人が増えた日(綾人side)



――最近、歩の様子がおかしい。


社内恋愛を経て、去年結婚式を挙げた。


入籍も済ませ晴れて夫婦となった俺たちは、毎日仕事に邁進しながらも仲良く二人で暮らしてきた。


しかし、ここ数日歩が変だ。



「歩?」


「……」


「歩、……歩!」


「っ!……ごめんなさい、何?」


「……いや、ボーッとしてたから。食事も進んでないみたいだし。具合悪いなら仕事休んで寝てろ」


「大丈夫。ちょっと最近食欲無くて。でも別に具合悪いわけじゃないから」


「……無理だけはすんなよ?」


「ありがとう」



フッと笑う顔が、どこか無理をしているように見受けられる。


それに心配は募るものの、歩が大丈夫というのなら俺はそれを信じるしかない。


しかし仕事に向かってしばらく経った後。


歩が業務中に倒れて病院に運ばれたと連絡を受けて、部下たちに仕事を任せて急いで俺も早退した。



「歩!」


「……綾人さん。ごめんなさい、心配かけて……」


「大丈夫なのか?怪我はしてないか?具合は?病気とかじゃないのか?」


「ちょっと落ち着いて……」


「落ち着けるか!無理するなって言っただろ!」



歩は病室で横になっており、点滴が繋がれていた。


心配のあまり怒鳴ってしまい、



「悪い。歩を責めてるわけじゃないんだ」


と謝る。



「わかってる。私のこと心配してくれてるから怒ってるんでしょう?お仕事も早退させちゃってごめんね。ありがとう」


「仕事なんて気にしなくていい、うちの部署が全員優秀なのはお前もよく知ってるはずだ」


「ふふっ、うん」



歩は今でこそ人事部にいるものの、元々は営業課でバリバリ働いていたのだから。


自分のチームの部下たちを思い出したのか、小さく笑った歩に少しだけ安心した。


その後病室のドアがノックされ、女性の医師が入ってくる。


俺が来たことを知り、事情を説明してくれるらしい。



「妻は、どこか悪いんでしょうか」



縋るように答えを求める俺に、先生は穏やかに微笑んだ。


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