冷徹上司の、甘い秘密。
「そんな悪いお話ではございません。奥様は、ご懐妊なさったんですよ」
「……え?」
ご懐妊?
すぐにその情報を処理できなくて固まる俺に、
歩は
「綾人さん。私たち、子どもができたの」
「……子ども?」
「うん。黙っててごめんね?私も信じられなくて」
ちょうど点滴が終わり、混乱している俺を他所に歩の腕から針を抜いたナースが、「おめでとうございます」と俺に声を掛けて病室を出ていく。
「奥様は悪阻であまり食べられなかったようで、貧血で倒れてしまったんです。今点滴をしたので一安心ですが、もしかしたら体質的に貧血になりやすいかもしれないので、そうなると定期的に錠剤の服用や酷いと点滴が必要だったりします」
「……そう、でしたか」
「産院が決まるまではうちで診ますのでご安心を」
先生は歩に「無理しないで身体を冷やさないように」とだけ笑顔で声を掛けて病室を出て行った。
今日はこのまま帰っていいらしく、歩が起き上がるのを手伝って、身体を支えて歩く。
タクシーで家に帰ると、俺はそっと歩を抱きしめた。
時間が経つにつれて、実感が湧いてきたのだ。
「身体は大丈夫か?気付かなくて悪かった」
「うん、大丈夫。綾人さんは何も悪くないから謝らないで。私も全然気付いてなかったの。ちょっと疲れが溜まってるんだって勝手に思ってて」
「そうか。でも今日からは絶対無理するなよ?もう一人の身体じゃないんだから。俺もできる限りのことはするから」
「……ありがとう綾人さん」
その日は夜遅くまで性別はどっちがいいとか、ベビーグッズを揃えなきゃとか、歩のためにゆったりした服を買おうとか、名前はどちらが考えるかとか、そんな先の早い話を二人でしていた。