冷徹上司の、甘い秘密。
翌日からは忙しない毎日が待っていた。
まず、朝の食事を俺が担当することにした。晩もできるだけやりたいものの、仕事でどうしても残業になる日も多くそこは疲れている歩に頼る他無い。
具合が優れない日は何もしないで寝ていてほしいと伝えているため、夕方近くに料理ができそうもないと連絡が来れば歩が食べられそうなものを急いで買って帰った。
どうやらフルーツが食べたいらしく、毎日のようにパイナップルを食べている。
妊婦といえばグレープフルーツと思っていた俺は拍子抜けしたものの、個人差というものを実感した瞬間だった。
俺ができることは全部したい。
俺と歩の子どもだ。男の子でも女の子でも絶対に可愛いはず。すでに愛おしさが止まらない。
たまに歩のお腹を撫でさせてもらうと、数ヶ月後には俺の手を蹴ってくれてその力強さに男の子じゃないか?なんて言ってしまうくらいには舞い上がっている。
性別が判明する前から服を買い漁り、名前候補をいくつも考えて、歩に"親バカ"と言われてしまう始末。
愛おしいものは仕方ないじゃないか。
「綾人さん」
「ん?どうした?」
「ありがとう」
「何が」
「一人で出産って、心細くて。来てくれて嬉しい」
「当たり前だろ。俺たちの子どもなんだから。俺には応援することしかできないけど、ちゃんとここにいるからな」
「うん、頑張る」
破水して、LDRと呼ばれる部屋でベッドに横になっている歩の腰を摩る。
十五分ほどの間隔で来ている陣痛に、歩は呻き声をあげて耐えていた。
その痛みを代わってやりたい。でも、それが俺にはできない。
手を握って、汗を拭いて、水を飲ませて、声をかけて。
男はなんて無力なんだと痛感する。
それでも。
数時間後、元気な産声をあげて生まれた赤ん坊。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
助産師さんから受け取った小さな小さな愛おしい存在を、震える手で抱っこする。