冷徹上司の、甘い秘密。
……本当、この人は私の嘘をよく見抜く。
昔から、飛成課長は私の体調が悪い時、すぐに見抜いてきた。
私がわかりやすいのか、課長が鋭いのか。
その視線から逃れようと顔を下に向けるものの、課長はそれを追ってきて。
仕方無く目を合わせると、課長は怪訝な表情をした。
そして何を言うわけでもなく、私の腕を引いて駅から遠ざかる。
「か、課長?どこに向かってるんですか……」
「……静かなところ」
「でも私帰りたいんですけどっ……」
言うと、課長はこちらを振り向く。
しかしその顔はやはり怪訝なもので。
「……そんな顔で、地下鉄乗るつもりか?」
「……え?」
言っている意味が分からなくてそう聞くと、課長は一つ息を吐いて私の頬を右手の親指で優しく撫でた。
冷たい指にビク、と肩が少し跳ねた。
「……泣いてたら、目立つぞ」
穏やかに微笑んだ課長に、私は固まる。
そして自分の手を顔に当てると、確かに水滴が付いて。
上を向いて、雨が降っていないことを確認した。
でも泣いている自覚は全く無かったものだから。
「え?……あれ?何で……あれ……?」
課長は私の腕を離そうしないため、空いている手でメイクが落ちないように涙を拭う。