冷徹上司の、甘い秘密。
どれくらい歩いたか、気が付けば目の前には一軒のお店が。
「……居酒屋?ですか?」
「あぁ。一杯付き合え」
有無を言わさない言い方にとりあえず頷く。
通されたのは奥の和室。
外観から見て思ってはいたけど、ここってまさか大分お高いお店なんじゃ……?
「腹は?減ってるか?」
「……いえ、食べてきたので全然」
「わかった。じゃあつまみ少しと……酒は?適当に注文していいか?」
「あ、はい」
女将さん、と言いたくなる上品な店員さんに幾つか注文すると、すぐに運ばれてきたお酒。
課長はビール、私はハイボールで乾杯をした。
優ともこうしてよく一緒にお酒飲んだなぁ、なんて。ジョッキを合わせながら今更楽しかった記憶を思い出す。
優もビールが好きで、私はいつもハイボールで。思い出せば思い出すほど勝手に切なくなって。止まっていたはずの涙が、またほんの少し滲んだ。
「というか、課長コーヒーは嫌いなのにビールは飲めるんですか?」
ふと思ったことを聞くと、馬鹿にしたようにこちらを向いて。
「酒は別物だ」
「いや意味がわかりません」
何故そこで得意気になるのか。