冷徹上司の、甘い秘密。


 部屋に向かうまで、何を喋ればいいのか分からなくなってしまってお互い無言のままエレベーターに乗る。


 部屋は10階。レトロな音が到着を知らせてくれてエレベーターを降りる。


 廊下に出て、一番奥の右側。


 【1008】と書かれた扉にルームキーを刺してドアノブを捻ると中に入った。


 中は何てことのない、普通のツインルーム。


 ベッドの上に置かれたバスローブに、緊張が増す。


 ……いやいや、寝るだけだし。


 隣を見上げると、課長の表情は特に変わっていないように見える。


 一先ず荷物を端に置いて、私はドアに近い方のベッドを使うことになった。


 このビジネスホテルにはご飯が美味しいというレストランがあり、さらには小さいながらも大浴場があることが売りのホテルだ。


 まだ夕食を食べていなかった私達。



「……とりあえず食べに行ってみるか」


「そうですね。行きましょう」



 再びエレベーターで二階に向かった。



「二名様ですね。こちらのお席へどうぞ」



 ルームキーを見せてレストランの中に入ると、時間が時間だからか、そこまで人は多くはない。


 同じような出張で来ているようなビジネスマンらしき人と、フロントの方が言っていたコンサート帰りのような派手な服装の人が数人いた。

< 66 / 186 >

この作品をシェア

pagetop