冷徹上司の、甘い秘密。
「もう、折角美味しいスイーツさっき買ってきてたからお裾分けしようと思ったのに」
「……」
目の色が変わったような課長に、私はどうしてか心臓がズキンと痛む。
「金山ちゃん知ってた?綾人ったら昔っから甘い物が大好きでねー、なのに馬鹿にされるから黙っておいてくれって言って……」
「おい、ペラペラ喋るな」
「何よ、良いでしょ減るもんじゃないんだから」
「いいから」
……なんだ。課長の秘密知ってるの、私だけじゃなかったんだ。
「あ、そうそう。私ね、今度そっちの支社に一時的に戻ることになったの」
「……なんだ、左遷か?」
「ははっ、まさか。そっちの開発部からのヘルプ要請があってね。私が行くことになったの。今日はその下見。明後日一回こっちに帰ってきてから来週もう一回そっち行くの。三ヶ月くらいになると思う」
「結構長いな」
「うん。だから長いことホテル取って今日荷物置いておこうと思って」
だからこれ、とスーツケースを指差した恭子さん。
その顔が凄く嬉しそうで。
「まぁ、綾人とは違う部署だから会うこともあんまり無いかもしれないけど」
「そうだな」
課長も、会社では見ないような少しだけ柔らかい表情をしている。
チクリと痛む胸に手を当てる。
「そうだ!今日の夜空いてる?久し振りに綾人とも話したいし、ご飯でもどう?」
「あぁ……今日はもう直帰予定だから別に良いけど」
「やった!じゃあ後で連絡するね!」
ぱあっと笑った恭子さんが、凄く眩しく見えた。