冷徹上司の、甘い秘密。
「……すみません、私ちょっとお手洗いに行ってきますね」
「……金山?」
「はーい、行ってらっしゃーい」
恭子さんの明るい声を背に、思わずその場から逃げ出した。
トイレの洗面台の前で、ふぅ、と息を吐く。
当たり前じゃないか。旧知の中なら、知っていてもおかしくないじゃないか。
……どうして私は、こんなにもショックを受けているのだろうか。
「……まさか、ね」
ズキズキと痛む胸を抑えて、目の前の鏡を眺める。
「……ははっ、酷い顔」
だらしなく眉の下がった自分の顔を見て、
「そんなわけ、無いと思ってたんだけど」
朝、キスされた唇をそっと指で撫でてからぽつり、呟く。
──好き、なのかも。
胸に秘めた想いが、動き出した。