冷徹上司の、甘い秘密。
「やっぱり!お似合いだなってずっと思ってたんです!」
「何言ってるのよ、昔の話だもの。今はただの昔馴染みの同期よ」
ちらりと覗いた隙間から見える微笑んだ恭子さんの目が、とても優しい。
……やっぱり、二人は昔付き合っていたんだ。
恭子さん達が離れるまでそこから出るに出られず、私は手に持っていた二人分のカフェオレを黙って見つめる。
もしかしたら、なんて。ほんの少しだけ期待していた自分がいた。
周りからも仲が良いと言われ、課長の秘密を知っていて。
よく内緒でスイーツを食べに行って。休日はデートのように出かける機会もあって。
自惚れていたのかもしれない。もしかしたら課長も私と同じ気持ちなんじゃないかって。
嫌われていないことは確かだろう。
でもきっと、それだけだったんだ。
偶然バレてしまったから、丁度良かっただけ。
今はただの同期なんて、きっと嘘。
万が一恭子さんがそう思っていたとしても、課長はまだ好きなんじゃないだろうか。
別れた理由なんて知らないし、どれくらい付き合っていたのかも知らないけれど。
でも、課長と恭子さんがお互いを大切に思っていることは十二分にわかる。
だって、あの仕事に厳しい課長が業務中に"恭子"と下の名前で呼ぶなんて。
恭子さんと話している時は声も表情も柔らかいような気がする。
私にはあまり見せない表情。
きっと、そういうことなんだ。
自分の中で落ち着いた答えに、乾いた笑みが溢れた。
……傷が浅いうちで、良かったなあ。
手に持っていたカップの中身を、二つとも簡易シンクに捨てた。
不思議なことに、涙は滲むことすら無かった。