何か、どこか、ひとつ
               ’どこか’

あの後コーヒーを飲み終わった桐谷さんは
すぐに帰っていった





安堵と寂しさ




そんなことを思いながらも私は1日を終えるため
ベットへと向かい、眠った










それから数日が経ち



夜に目が覚めた




タバコと食べ物を買いに行こうと思い外へ出る




いつも来ている近所のコンビニへ行った





コンビニを出ていつもなら思わないことを思った





そうだ、たまにはこの辺を散歩しよう






そう思い、私の足は家とは逆の方向へと向かった









しばらく歩くと海が見えてきた





「綺麗」




「久々に海を見たな」





砂浜を裸足で歩き始める





砂浜の真ん中あたりで腰を下ろし、座った




こんなに大きな海の中にもたくさんの命がある



私はこの海にいる生き物よりちっぽけに感じた




死んでも誰もわからない




死んでも誰も傷つかない




死んでも誰も悲しまない





海の波に
そんなことを言われているように感じた





海の中へと入る




冷たいなぁ





どんどん歩き進めると太ももあたりまで水がきた





このまま進んで足がつかなくなれば死ねるかな





そんなことを思っていると後ろから手首を掴まれた





「おい、何してる」



あ、この声桐谷さんか




「何も」





私の腕を引っ張りながら砂浜へと戻っていく




何しにきたんだろう、この人




「お前、死にたいのか」





「呼ばれてる気がして」





「この手首の傷も首の傷も全部自殺しようとした
 傷か」





びっくりした




傷に気づかれるとは思ってなかった




いつ、どんな時でも隠し続けた




なのにどうして、気づかれた




「家の中でも真夏に長袖着てるのはおかしい」
「髪の毛を結んでいる姿を見たことがない」





と、桐谷さんは言った



そっか、そんなことでわかるんだ





「やっぱりお前は俺の女になれ」





意味がわからない




「お前の人生キラキラしたものにしてやる」




私はドキッとした



それは恋の意味ではなく




この間自分で思ったことだからだ




〝私も生きてるうちに一回でもキラキラするのかな




それを知っているのか、と思うほど驚いた





「私は何もない」
「私はどこにも居場所がない」
「私はひとつも、、、、」





「それを俺が作ってやる」



そんなこと言われたことがなく苦しくなった



気が抜けた私は倒れた




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