『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】
「そうよ。緑のカーテン。苗が15センチほどに成長したら、窓際に植え替えるのよ。見たことない?日差しを遮るように窓の外の網につるを絡めて成長してるの」
「ああ、省エネとかいうやつ……。園芸部が苗を作ってるんだ……」
「そう。苗だって、買えば、1本何十円はするでしょう?でも育てればタダ。緑のカーテンの役目を終えるころ種ができるから、それを次の年に植えて、また種ができて、次の年にまた植えて……。ゴーヤを収穫して食べる人が少ないものだから、種はいっぱいできるのよね」
 実は、この緑のカーテンで学校に貢献しているから、部員が1名でも園芸部が存続できてるんだよね……。
 でも、さすがにゼロになったらもう終わりだよね……。このまま新入部員が入らずに、私も卒業しちゃったら……。
 私の代で園芸部終了とか……!先輩たちになんと言われるか!
 何としても、新入部員を増やさなければ。
 興味をもってくれてるこの男子生徒に売り込まねば。園芸部の良さを!
「それから、あっちはトウモロコシ。甘くておいしいよ。生でも食べれる白いトウモロコシができるんだよ。あと、これは」
 と、他のも紹介しようとしたのに、男子生徒は、ゴーヤの芽から目を離さずしゃがみこんだ。
「これがいい……」
 ほうっ?
「もしかして、ゴーヤが好物なの?」
 って、そんなわけないか。
 ゴーヤいっぱい植えてあるの知って、かわいそうな子を見る目を向けてたもんね……。
「ぷっ。面白いね、由岸先輩」
 笑われた。
「さ、先に、ゴーヤが好物なのか聞いたのは、あなたの方でしょ?」
「ご、ごめん、クスクス。そうだね、悪かった。……それから、名前も言ってなかったね。僕は梶谷。一応1年生かな……」
 ふむ。1年の梶谷君か。
 笑われたのはちょっと納得できないけれど、笑うといい顔になるんだ。
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