『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】
 なんか生気がないというか、元気がない感じだったから……。笑ってた方がいいね。
「この子たちは、窓辺で教室の中を眺めながら成長するんだね」
 ほ?
 この子たち?
 植物をこの子たちって言うなんて、園芸部に入る素質ありますよ!
「そう!本当かどうか知らないけれど、音楽室の音が聞こえる場所のゴーヤは成長がいいとか先輩が言っていたのよ」
「へぇ。できた実を食べ比べると、味も違うのかな?」
 お、興味を持った?
「一緒に食べ比べてみようか?」
 新入部員をゲット、ゲット!
 にこっと笑ったつもりが、下心が見えた笑いになってしまったのか。
 梶谷君は顔をそらしてしまった。
「無理……」
「え?もしかして、ゴーヤ嫌い?……確かに、苦くて、美味しいなぁとは思わないけど……。なんか、苦みは毒だと本能的に避けるように人間の舌はできてるんだって。だからピーマンとか子供が嫌って食べられないのは仕方ないって聞くし。で、大人になってくると苦みや辛味などの刺激を欲するようになって、美味しく感じるらしいって。ビールとかが有名だよね」
 毒草を育てていた先輩の話を懐かしく思い出す。本当の毒は、苦いものばかりじゃないとか言ってたな……。試したのか!
「食べれるよ。ピーマンもゴーヤもっ!」
 梶谷君がむっとした顔を向ける。
「何、怒ってるの?」
 やばい!
 私、何かした?
 新入部員ゲットのチャンスなのにっ。怒らせたらだめじゃんっ!
「由岸先輩が子供だって、馬鹿にするから……」
「え?私、馬鹿になんてしてないけど?」
 何を言ったんだった?気に障るようなこと……。
 思い出そう、えっと。
 額に手を当てて
「うわぁ!手が土だらけだったんだったぁ!」
 土だらけの手で額を触っちゃったよっ!
「ぷっ。由岸先輩の方が、よっぽど子供だと思う。実は、由岸先輩、ピーマンもゴーヤも嫌いでしょう?」
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