『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】
「そっ、そんなに特殊なことじゃないよ。ほ、ほら、ぬいぐるみやペットに話しかけるのとそう変わらないっていうか、サボテンとかは話しかけると花を咲かせるとかってのは有名な話だし……。卒業した先輩たちみたいに、私は名前とか付けたりしてないし……」
 ぐおおおう。何を必死に言い訳してるんだろう。
「ふーん、お前たち、由岸先輩に話しかけてもらってるんだ」
「あ、ほ、ほら、今、梶谷くんも話しかけた!」
 思わずびしっと、土だらけの手で指をさしてしまった。
「ぷっ。なるほど。話しかけるって……。今日はいい天気だなぁとかそういうのを独り言にするか、植物相手に話すかの差か。独り言よりはいいかもな」
 にかっと笑われた。
 ううう、これ、褒められてはいないよね。
 でも、馬鹿にしているような感じでもない。
 どう返していいのかわからず、話を変えることにした。
「えっと、で、何か植えてみたいんだったよね?」
「何かじゃなくて、ゴーヤに決めた」
 そういえば、そんなこと言ってたっけ?
「えっと、ゴーヤの植えかえはまだ何日か先になるんだけど、またそのころ来てくれる?」
「先……?」
 梶谷君の視線が空を少しさまよう。
 もしかして、今日すぐに何か植えたかったのかな?
「どれくらい先?」
「んー、本葉が3~4枚くらいで、15センチくらいの大きさに成長したらかなぁ……」
 今はまだ芽が出たばかりで数センチだ。
「それはいつ?」
「あと、一週間~2週間の間だとは思うけれど……。確か昨年と同じ時期に種まきしてるから、植え替えも同じくらいのタイミング……5月の終わりから6月のはじめくらいになると思う」
 じゃぁ、また来るよと言って梶谷君は帰っていった。

 次の日。
「教えて欲しいんだけど」
 授業後、園芸部の畑……いや、花壇で作業をしていると、再び梶谷君が現れた。
「まだ、ゴーヤの植え替えは無理だよ?」
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