『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】
「違う、今日はサボテンのことを教えて欲しいんだ」
 サボテン?
「えーっと、サボテンの種類によっては、肉厚な葉のとげを抜いて皮をむいて、ステーキにして食べたりできるけど、今のところ栽培する予定はないよ?」
 と、まじめに答えたのに、梶谷君はぷっと吹き出した。
 昨日初めて顔を見たときには、弱弱しい表情をしていたけれど、今日は初めから割と明るい表情をしている。
 ……もしかして、昨日は何か辛いことがあって、一人になりたくて人気のないところを探してここにたどり着いたとかだったりして?
 たまにいるんだよね。「うわっ、人がいた!」って驚かれること……。……主に、人目を避けていちゃつこうとするカップルなんだけどさ……。
 邪魔者を見る目はやめて欲しいよ。邪魔なのはあんたたちの方だからって言いたい!
「くくくっ。由岸先輩って、食べられるものしか植えない主義?」
 思い出してイラッとしたのを、梶谷君の笑い声が吹き飛ばした。
「そっ、そうじゃないけど、そうじゃなくもないけど、いや、やっぱりそうじゃないようなそうじゃなくないような……?」
「まさか、サボテンで食べる話が出るとは思わなかった。由岸先輩面白すぎ」
 ぷぅー。
 面白すぎるって、すぎるってなんだ……!
「だって、こんな人が来ないところに花を植えても、花が可愛そうでしょう?せっかく綺麗に咲いても人に見てもらえないんだよ?だったら、食べられるもの育てればさ……美味しく食べてあげれば植物もうれしいかなぁって思わない?」
 という私の主張に、梶谷君は黙っている。
 ……。沈黙が重たいわっ!
 女の子はみんな花に囲まれていたいとでも思ったのか?
 言っておくが、イチゴも薔薇の一種だぞ?バラ科だからね!
 梶谷君の綺麗な瞳がまっすぐ私を見てる。
 まるで、罪人を断罪するがごとく、まっすぐな瞳が突き刺さる。
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