ちゅ、
駅まで歩いて、お互い「じゃあね」と別れた
ただ付き合い始めただけでまだ何もしてないのに、とても幸せだった
人を好きになるってこんな感じなんだ、と思った
私、碧くんが好きだ
家に着いて、すぐにお風呂に入って寝た
夕方からの歯医者のために昼過ぎに起きて準備を始める
目が覚めても私は碧くんが好きだった
電車で寝過ごしたという碧くんのラインに返事をして、歯医者に向かう
ずっと機嫌が良かった
次の金曜日も飲みに行く約束をする
そして思い出す
そういえば明日、イケメンとランチをする約束だった
碧くんにそれを報告すると「楽しんでおいで」と返事がきた
ちょっと不安になる
私は昨日の夜あんなに嫉妬してたのに、現在進行形で別の男性と会おうとしてるのに嫉妬しないの?
嫉妬してほしくて報告したわけじゃないけど、複雑な気持ちになった
碧くんから「二日酔いだからリゾット作る!」と買い物をした写真が送られてきて
でも少ししたあと「イチとの共通の友達から連絡きて飲みに行くことになったからリゾットは持ち越しになった」とラインがきた
こんなこと報告してくるなんて、碧くんも浮かれてるのかな
翌日、お昼からイケメンと合流して、軽くランチをした
ところどころで碧くんの話をして、どうにかこうにか「碧くんと付き合ってる」と言うタイミングを作ろうとする
でも結局全部かわされて言えずじまいだった
ランチの後、居酒屋に移動して話してる時、私がイケメンのことを「そんなにかっこいいのに彼女がいないなんて信じられない」と言ったら
「イケメンって言われるのは嬉しいけど、それしか言われないと外見だけで中身に魅力ないのかなって思っちゃう」と言った
ああそうか、私はこの人の顔だけが好きなんだ
碧くんの全てに惹かれるのとはまるで違う
私は「好き」というのを履き違えてた、ずっと
私は先週も今日もイケメンの中身を知りたいと一瞬も思ってない
面食いなのにイケメンと付き合いたいと思えないことが腑に落ちた
碧くんに会いたい、今すぐ
イケメンとは早々に解散して家に帰った
碧くんに「帰ってきた」と連絡したら、「お疲れ様」とだけ
「碧くんと付き合ってるって言いたかったけど、言うタイミングがなかった」
言い訳っぽくなったかなと思いながら碧くんにそう送ると「別に大丈夫だよ、ありがとう」と返事がきた
やっぱり嫉妬とかないのかな
いや、大人なのかもしれない
「ちょっと電話できる?」
碧くんからのラインに「大丈夫!」と返事をするとすぐに電話がかかってきた
「もしもし?」
「もしもし、お疲れ〜」
碧くんの声を聞いて、脈が速くなるのを感じる
「今日ずっと会いたかった」
「俺もだよ」
「今日ランチしたとこのお店、チーズケーキが美味しかったから今度碧くんと行きたい」
「いいね、行こう
今日は楽しかった?」
「おしゃべりするのは好きだから楽しかったけど、すごく碧くんに会いたくなった」
「そっか、俺は不安で友達と飲んだあと紛らわすためにずっと外歩いてた」
「行かないでって言わないから嫉妬しないのかと思ってた」
「めちゃくちゃしてるよ、でも茜のこと信頼してるし、かっこ悪いから楽しんできてって言ってるだけだよ」
「そっか」
なんだ、と安心して笑う
「俺、自分に自信ないから別の男と会ってなくたって不安だよ」
「私だって自信ないよ、いつ碧くんに飽きられるかってビクビクしてるもん」
「飽きないよ」
碧くんの言葉に、碧くんを好きになってよかったと改めて思う
そこから3時間くらい電話し続けて「おやすみ」と言って切った
妙にご機嫌な私の影響で、実家の空気もなんだかよくなって
たぶん今までで一番浮かれた一週間だった
金曜日の朝、家族に「今日も飲んで帰るから遅くなる」と言って家を出た
仕事にも集中できなくて、一日中上の空だった
仲の良い上司から「今日仕事のあと何かあるの?」と聞かれるほどわかりやすかった
定時きっかりで上がって、碧くんとの待ち合わせ場所へ急ぐ