ちゅ、
ここまで話して、碧くんは泣いていた
碧くんとは対照的に私はすごく冷静に自分の家族について話していた
碧くんは優しい
私が外に出せない心の痛みを、仕方がないと諦めて蓋をしていた過去のやるせなさと、幼いままの私の心に寄り添ってくれる
泣くことを放棄した私の代わりに泣いてくれる
どこまでもお人好しで、どこまでも愛おしい
「なんで碧くんが泣くの」
「ごめん、つらかったんだろうなと思ったら」
「優しいね」
碧くんに出会えてよかった
碧くんを好きになってよかった
碧くんが私を好きになってくれてよかった
「最初会った時から碧くんに愛されたら幸せだろうなと思ってたけど、やっぱり碧くんと一緒にいられてよかった」
成長しきれなかった私を置き去りにして表面だけ繕っていた私が、碧くんといたら救われるかもしれない
「俺も茜と出会えてよかった。茜の笑顔が好きだよ。俺はそんなに明るくいられないから、茜が元気でいてくれると俺も楽しいし安心する」
碧くんの言葉に嬉しくなって、照れてしまう
碧くんは照れ笑いする私の頬に手を添えて、まだ少し潤んだ瞳で私を見る
もう何度目か分からないくらい、碧くんを愛おしく思う
ディナーのあと、私の実家まで送ってくれた碧くんと何度もキスをしてから別れた
次の日は何も予定がなくて、久々にぐっすり昼まで寝た
久しぶりに家でダラダラ過ごして、飼い猫とごろごろして、何もない休日を過ごす
今までは休日はとにかく何もせずダラダラ過ごすのがよかったのに、化粧が面倒でも距離があってもそれでも碧くんに会いたくてたまらない
翌日の碧くんとイケメンと三人での飲み会が心の重荷すぎて、お昼から先に碧くんと会う約束をした
夜になって、イケメンから「明日待ち合わせしてから行かない?」とラインがきた
「直前まで予定あるからごめん」と返す
碧くんとの予定だと言ってしまいたかった
私がそもそもこの飲み会を断ればよかったのだ
今はこの飲み会をすごく後悔してる
翌日、お昼に碧くんと落ち合って漫画喫茶に向かった
二人で個室に入ってお互い読みたい漫画を読んで、うつ伏せに寝転がる碧くんの腰を枕にして私も横になる
どこでもいいから体に触れた状態でいたかった
私ってこんなに触りたがりだったっけと思う
自分が思ってたよりもずっと甘えん坊なんだと気づく
相手が碧くんだからかもしれない
碧くんは何もしてこない
キスもしてくれない
飲み会の予約時間の一時間前、「そろそろ出る?」と碧くんが言う
私は寝そべったまま、うん、と返事をして体を起こした
「ねぇ待って」
漫画を戻しに立ちあがろうとする碧くんを止めて、あぐらの碧くんの膝の上に座る
向かい合った碧くんの両頬に手を添えてキスをした
不安になっていた
このまま何もせずに飲み会に言ったら、何か悪いことが起きる気がして怖かった
私以上に碧くんが張り詰めてるように感じて、それに影響を受けたのかもしれない
安心したかったし、安心してほしかった
私は碧くんしか見えてないから
誰かと比べて碧くんが好きなんじゃなくて、比べる対象なんか無くても碧くんが好きだと、どうしたらうまく伝わるかわからなかった
何度も何度もキスをして、碧くんに抱きついた
「ありがとう」
碧くんがそう言ったのを合図に、片付けて漫画喫茶を出た
手を繋いで歩きながら「今手繋いでるとこ見られたら困っちゃうね」と笑って言う
見られたっていいんだけど、説明するのも重い空気になるのもイケメンを傷付けるのも嫌だなとそう思っていただけだった
失言だと気付いたのは、碧くんがパッと手を離したときだ
もう遅い
「どうする?付き合ってないテイでいく?」
そう聞く碧くんは少しムッとしてるような気がした
なんてツッコんでいいかわからなくて、碧くんに嫌われたかもと思うと、何も考えられなくなってしまった
「碧くんはそれでいいの?」
「別にいいよ、今日だけだし」
「そっか、じゃあ説明も面倒だし進展ないってことにしようか」
「わかった」
居酒屋の前について、碧くんと私がそれぞれイケメンに到着の連絡をする
程なくしてイケメンが到着して、三週間ぶりに三人が揃った
お店に入って、席に着く
碧くんとイケメンが並んで座って、私は碧くんの正面に座った
あくまでも私は碧くんの彼女なのだとわかってほしくて
飲み始めて一時間ほどして、私がトイレで席を立った
素早くメイク直しをして、席に戻る
なぜか二人ともいなかった
ラインも特にきてない
二人とも喫煙者だから、多分タバコなんだろうけど、まさか二人でいなくなるとは思わなかった
碧くんに「タバコ?」とラインをして、席で待った