ちゅ、
二人でタバコを吸いながら、どんな話をしてるのか気になった
もし、碧くんが付き合ってるとバラしていたら、それは私がいる時にしてほしかった
さほど待たないうちに二人とも戻ってきた
「あ、戻ってた、怒ってる?」
笑いながら聞いてくるイケメンに腹が立つ
何を笑ってるの?
「誰もいなくて寂しかった」
「ごめん」
碧くんが素直に謝った
なんとも言えない申し訳なさを感じるその表情に、すごく不安になる
イケメンは何事もなかったかのように飲み会を再開して、三十分ほどした頃に碧くんがタバコで席を立った
「ちょっと気分落ちてるからリセットしてくる」
そう言う碧くんについて行きたかったけど、あいにく私は喫煙者ではない
残された私とイケメンで当たり障りのない話をする
「ちょっと気にしすぎだよな」
イケメンの碧くんに対する発言にイラッとして「優しいんだよ」と返す
私に対する不安で碧くんが崩れてるのはわかってる
でも、だったら、私が碧くんの彼女だと、自分のものだと、もっと主張してほしかった
それができないのが碧くんだということもわかってる
私はもっと愛されたい
独占欲を感じたい
碧くんに独占されたい
タバコから戻ってきた碧くんと入れ替わりでイケメンがタバコを吸いに行く
イケメンが席を立ってすぐ、私は碧くんの隣に移動した
碧くんの頬にキスをして「ごめんね」と謝る
傷付けたかったわけじゃなかった
何も考えてなかった私が悪い
なんの配慮もできなかった私が悪い
碧くんが、碧くんを好きな女と一緒に飲むなんて、私が同席してても嫌だ
少し考えればわかることを、バカな私は碧くんを傷付ける選択を平気でした
碧くんがやめようと言えないのもわかっていたのに
私がキスをするうちに、碧くんは「情け無い」と泣き始めてしまった
「泣かないで」
もうどうしていいかわからなくて、いっそ今、イケメンが戻ってきてくれれば、付き合ってましたって言えるのにと思った
碧くんの涙が引いた頃、イケメンが戻ってきた
他愛無い話をして、飲み始めて二時間半ほどでお開きになった
碧くんとイケメンがお会計をして、お店を出た
もう何度も碧くんと飲んでるのに、初めて碧くんがフラフラするほど酔っ払っている
手を繋ぐことも抱きつくこともできないで、駅まで私を真ん中にして三人で並んで歩く
このもどかしい時間が本当に嫌だった
付き合ってると言ってしまえばよかった
今、言う?
いやでももう終わりなのにわざわざ言う必要なくない?
頭の中でぐるぐると迷いながら、碧くんの家に向かうホームの階段下まできた
イケメンはたぶん、碧くんをホームまで送ったら私と二人で帰れると思っていたと思う
ここまできてようやく「今日、碧くんの家泊まるからこっちから帰るね」と言えた
言えたけど、遅い
「え?どういうこと?」
引き攣った笑顔のイケメンを見て心が痛む
「ごめん!茜は俺がもらうわ!」
急に大きな声で言う碧くんに「酔ってるなぁ」と思う
「碧くんと同じアニメが好きでね、今日は碧くんの家で夜通し観るの」
「えーいいなぁ」
棒読みのイケメンに「早く帰れよ」と思う
このとき、碧くんと付き合ってるということもはっきり言えばよかった
「じゃあまたね」と言って手を振る
ホームまで階段を登って、私はまた「ごめんね」と謝った
さっきの対応はもっと上手くできたはずだ
碧くんを傷付けないように、私はもう碧くんのものだともっとはっきり表現できたはずだ
結局私は、碧くんもイケメンも傷付けたくなくて、どっちに対しても中途半端になってしまった
碧くんはさっきの勢いが消えて、また自己嫌悪になっている
電車を待つ間、何度も何度もキスをした
何度も「好き」と言った
電車の中で、碧くんはまた泣いて、31歳がこんなにも泣くものなのかと愛おしくなった
私の前でだけ崩れててほしい
誰にも見せたくない
泣いてる碧くんをオカズにオナニーできそうだと思った
オナニーしたことないんだけど
碧くんの家の最寄駅について、タクシーで家まで向かう
駅から家まで五分ほどだった
家に入って床に寝る碧くん
「お風呂入ってきちゃうね」
私がそう言うと、碧くんは曖昧に返事をした
私がお風呂から出たら、しっかり床で寝ていた
申し訳なく思いつつ、碧くんを起こす
「碧くんもお風呂入ってきたら?」
「茜はしっかりしてるね」
碧くんは訳の分からないことを言ってお風呂へ向かう
上がってきた碧くんはスッキリしたように見えた
「シャワー浴びたらちょっと酔いが覚めた」
そう言って、ソファに座ってる私の隣に座る
私は碧くんにしつこくキスをした
碧くんは満更でもない
キスした後の碧くんの笑顔が好きで、何度も何度もキスをする
でもやっぱり、家まできてもそれ以上はなかった