One week or more?
正人
大手企業の広報に今は麻衣子の籍がある。
大学を卒業して暫くは教職に就いたが、閉鎖的な空気にどうにも馴染めず1年経たずに退職、第二新卒として一般企業に再就職した。そこで出会った同年度入社の男と社内恋愛で結婚をし、一度は専業主婦になったのだが、家庭に収まっているのが苦痛であったのと、結婚生活が始まったと同時に見えて来た夫の人間的なつまらなさに時間の無駄を感じ、1年で離婚した。子どもが出来なかったのは幸いだった。
離婚後すぐに仕事がみつかった。
「今日はどこからご出勤かな?」
隣の席の男が小声で話し掛ける。
「笹塚」
同じく小声で麻衣子は答える。
「で、今夜はどこに帰るのかな?」
と問われて麻衣子は無言になった。どこに帰るかまだ決めてないしそんなことお前に答える義務も無いと言いたげな表情に見える。
だがその男、正人は麻衣子が今夜自分のところに来るとわかっている。笹塚の次はいつも大井町のはずだから。仕事が終わったら麻衣子を夕飯に誘う。その後そのまま2人で大井町に向かえば良い。そして麻衣子はその後1週間だけ正人の部屋から出勤するのだ。
「品川のオイスターバーにしようか」
帰り支度をする麻衣子に正人は横顔のまま声を掛けた。
「うん、良いよ。んじゃ」
待ち合わせの時間も場所も何も決めていないのに麻衣子は退勤してしまった。正人もそのまま仕事を続けている。
この2人はいつもそうだ。品川のオイスターバーは既知の店なので、シンプルにそこへ向かえば良いのだから、細々くどくど決める必要など無い。麻衣子は真っ直ぐ店へ向かい、先にテーブルに着き、適当にオーダーする。後から追い付いた正人は乾杯するだけだ。
前回麻衣子が正人の部屋に来たのはいつだったろう。半年前か? 付き合って10年近いのに正人は麻衣子のプライベートをほとんど知らない。知ろうとも思わないが。同僚である麻衣子とたまに夜を共にするのを心待ちにしている自分自身の独りの生活を、正人は気楽で楽しいと思っている。
大学を卒業して暫くは教職に就いたが、閉鎖的な空気にどうにも馴染めず1年経たずに退職、第二新卒として一般企業に再就職した。そこで出会った同年度入社の男と社内恋愛で結婚をし、一度は専業主婦になったのだが、家庭に収まっているのが苦痛であったのと、結婚生活が始まったと同時に見えて来た夫の人間的なつまらなさに時間の無駄を感じ、1年で離婚した。子どもが出来なかったのは幸いだった。
離婚後すぐに仕事がみつかった。
「今日はどこからご出勤かな?」
隣の席の男が小声で話し掛ける。
「笹塚」
同じく小声で麻衣子は答える。
「で、今夜はどこに帰るのかな?」
と問われて麻衣子は無言になった。どこに帰るかまだ決めてないしそんなことお前に答える義務も無いと言いたげな表情に見える。
だがその男、正人は麻衣子が今夜自分のところに来るとわかっている。笹塚の次はいつも大井町のはずだから。仕事が終わったら麻衣子を夕飯に誘う。その後そのまま2人で大井町に向かえば良い。そして麻衣子はその後1週間だけ正人の部屋から出勤するのだ。
「品川のオイスターバーにしようか」
帰り支度をする麻衣子に正人は横顔のまま声を掛けた。
「うん、良いよ。んじゃ」
待ち合わせの時間も場所も何も決めていないのに麻衣子は退勤してしまった。正人もそのまま仕事を続けている。
この2人はいつもそうだ。品川のオイスターバーは既知の店なので、シンプルにそこへ向かえば良いのだから、細々くどくど決める必要など無い。麻衣子は真っ直ぐ店へ向かい、先にテーブルに着き、適当にオーダーする。後から追い付いた正人は乾杯するだけだ。
前回麻衣子が正人の部屋に来たのはいつだったろう。半年前か? 付き合って10年近いのに正人は麻衣子のプライベートをほとんど知らない。知ろうとも思わないが。同僚である麻衣子とたまに夜を共にするのを心待ちにしている自分自身の独りの生活を、正人は気楽で楽しいと思っている。