One week or more?
【知子の店】
「麻衣子が来年年明け早々転勤するんだよー」
 正人が知子に言うと、知子は大して驚きもせずに、
「あら、そうなの? 正人さん、寂しくなるわね」
 と言った。海外に1年間行くとは思っていないからだ。
「海外なんだ」
 と正人が言うと、知子もちょっと表情を変えた。
「どこ? 遠いの? どれくらい行くの?」
 矢継ぎ早に質問する知子の顔はほんとに寂しそうだ。同僚の正人以上に寂しがっているのが伝わる。
「ケアンズ、1年間」
 と麻衣子はさらっと答えた。
「年明け出発だとあと1ヶ月半も無いじゃん! 準備に大忙しなんじゃない?」
 と知子は完全に麻衣子のほうを向いて話している。
「部屋はそのままで良いって言われたし、引継ぎ不要だし、向こうではホテル滞在だから、結構身軽に行けるの。問題無し」
 と麻衣子は知子に向けて親指を立てた。
「どうせ麻衣ちゃんのことだから、とっとと次のステージに向けて頭ん中切り替えてんでしょ」
 と知子は同級生らしい返しをする。
 そんな2人のやり取りを正人はにこにこしながらも複雑な思いで見ていた。麻衣子が居ないと人間関係の構図がごっそり変わる気がしていた。麻衣子はどこへ行っても自分の居場所を完璧に整えることが出来る女だ。1日でその場に馴染み、ずっとそこに居たような雰囲気を作る。この店もそうだ。この店に来るようになってまだ1ヶ月かそこらだが、何年も通っている常連よりも馴染んでいる。同級生の店だというだけではないだろう。
「出発前に送別会するから絶対に来て。12月が良いかな。そうだ、大晦日にしよう。元日まで貸し切りオールナイトよ、良い?」
 有無を言わせぬ感じで知子は決めてしまったが、麻衣子はイヤだとは言わなかった。麻衣子のために店を貸し切るなんてよっぽど知子は麻衣子のことが好きなんだな、と正人は羨ましかった。
「帰国の時もパーティーだからね。忘れずに連絡して」
 そう来たか。
「勿論すぐ知らせる。今はインターネットで距離感無いから」

 知子はその後、店に来る麻衣子のボーイフレンド達に麻衣子の転勤を伝えてくれたので、1週間後には拓郎と武夫を除く全員が麻衣子の転勤について知ることとなった。ついでに大晦日の送別会の出席も確約させられていた。麻衣子は出発の準備だけをすれば良い。
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