雨の音は、
「あれ、仁科さん、帰らないの?」
不意に声を掛けられその声の主を見ると、クラスの委員長の、長瀬くんだった。
時計を見ると、みんなが職員室で傘を借りようと言って出て行った時から、もう随分時間が経っている。
どうやら私は1時間も外を眺めていたらしい。
「あ、ごめん、教室の鍵、閉めるんだよね。いま出るね」
私は慌てて帰り支度を始めると、長瀬くんが窓の外を見て「うわ、雨、強くなってんじゃん」とため息交じりに呟いた。
そう言われて外を見ると、確かに、私がぼんやり見始めた頃より、少し強くなっている。
「……もしかして、傘、持ってないの?」
私が聞くと、長瀬くんは「……いや、持ってたんだけど、友達に貸した」と苦笑いをした。
「俺んち、学校から近いから。走ったら余裕だと思ったんだけど、さすがにこれは濡れそう」
「……家、近いんだ」
「うん、駅方向に、ダッシュで5分ぐらい」
ダッシュで5分かぁ、いくら走っても、これは結構濡れちゃうよね。
「……良かったら、一緒にかえ、る?」
「……え?」
「私、電車だし、駅方向だったら途中まで、一緒に」
「……いや、悪いし」
「でも、走っても、かなり濡れるよ?」
私がそう言うと、長瀬くんは少し考えて、「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」と言って、照れたように笑った。