雨の音は、
昇降口を出て傘を開く。
「俺がさすよ、俺の身長に合わせたら、きっと、手だるくなるから」
長瀬くんはそう言って、私の手から傘を取った。その時に一瞬だけ、長瀬くんの手が私の手に触れた。
「あ、りがとう」
手が触れて思わず動揺してしまい、返事が不自然になってしまったこと、長瀬くんは気付いたかな……。
気付いていないと良いけど。
「家が学校から近いの、良いね」
「あー、朝練無い日は、ギリギリまで寝てる」
「あはは、うらやましい」
「仁科さんちは? 遠いの?」
「えっと、電車で5駅。遠い方じゃないけど、近くもないよね」
「そうかもだけど、俺としては “電車通学”ってだけで、既に遠い」
「えー、贅沢ー」
「ありがとう、贅沢者です」
長瀬くんとこんなにたくさん話をするのは、初めてだった。
彼はクラスの委員長でもあるけど、生徒会の副会長もしている。だから、すごく真面目でもっと取っつきにくい人だと、勝手に思ってた。
笑顔がとても爽やかで、こんな顔して笑うんだ、って、なんだかちょっと不思議な気持ちになる。