雨の音は、
それにしても、距離が、近い。
傘の中、私の肩が傘を持つ長瀬くんの腕に、どうしても時々触れてしまう。
ほんの少しドキドキしながら長瀬くんを見ると、傘を持っていない方の肩が、しとどに濡れていた。
私の女物の傘は決して大きくない。その上、長瀬くんは私が濡れないようにと、かなり私の方に傘を傾けてくれていたようだ。
「わっ、長瀬くん、肩、すごく濡れてるっ」
私が慌てて傘の柄を押して長瀬くんの方に傾け直すと、長瀬くんは笑いながら私の手を反対の手でやんわりと引きはがした。
「大丈夫。全身濡れるより全然マシ。もともと俺は濡れる覚悟だったけど、仁科さんは違うでしょ?」
「でも、」
「俺こそごめんね、仁科さんも少し濡れたよね」
「私は、」
「傘に入れてくれてありがとう。俺んち、ここ」
ほとんど何も言い返させてもらえないまま、長瀬くんの家に到着したらしい。
「ちょっとこっち入って待ってて」
「えっ、あの、」
「すぐ戻るから、ちょっと待ってて」
長瀬くんは私を玄関の中に強引に招き入れ、バタバタと慌てたように中へと入っていき、またバタバタと走って戻ってきて、私にタオルをそっと差し出した。