雨の音は、

目を白黒させている私の目の前には、長瀬くんが持った飴玉が迫っていて。私は思わず、長瀬くんの顔と飴玉を交互に見やった。

長瀬くんは微笑みながら私が口を開けるのを待っている。

私が恐る恐る口を開けると、長瀬くんは反対の手に持っていたタオルを床にパサリと落として、その手で私の頬にそっと触れ、持っていた飴を私の口に入れた。

飴が長瀬くんの手から離れる時に、長瀬くんの指が私の唇に一瞬だけ触れる。

――頬に触れた手も、離れていく。


顔が、熱い……、

そして、口の中は、甘い、イチゴの、味……。


イチゴ味の飴を口に含みながら、何も言えずに長瀬くんを見つめると、長瀬くんはニコリと笑った。


「それ、お礼。雨の日に、飴。あ、ここ、笑うところだから」


わざと少しおどけた風にそう言って、落としたタオルをひょいと拾った。

私はそんな長瀬くんの仕草をぼんやりと赤面したまま見つめて、まだ動き出せない。だって、心臓が、あまりにも激しく動きすぎていて、苦しくて……。




――家に帰ってから、私は、この心臓の苦しいドキドキが何なのか、ぼんやりとした頭のまま考えていた。


ううん、本当は、どうしてこんなにドキドキしてるのか、分かってる。私、長瀬くんを、意識してしまっているんだ……。

私の頬に触れた長瀬くんの手の暖かさと感触が、私の唇にほんの一瞬触れた指先の感触が、まだ、残ってる……。


「……う、だめだ、」


熱い。

頬も、唇も……。



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