ため息のわけを教えてください
 本当は今日大福さんに会ったら「以前は失礼なクッキー渡してすみませんでした、不評で廃止になったんですよ」と言い訳をしたいが、無反応な彼しか想像できない。もう余計なことはせず、しばらく様子見したほうがいいだろう。これ以上こじれさせてしまいたくない。

 二十二時が近くなり、落ち着かないまま接客をしていると、店の外にからあげさんの姿が見えた。目が合うと、彼は店の外から手招きしてきた。

 何かあったのだろうか。人手不足で雇われた臨時バイトにレジを任せ、わたしは店の外に出た。
 からあげさんはどうやら仕事帰りのようだった。バレンタインデーでもらったものか、高級チョコレートブランドの紙袋をいくつも下げている。モテそうな人だなあと常々思っていたが、さすがだ。

「あのさ、大場さんってお酒は飲める?」
 突然の質問に唖然としていると、からあげさんの背中のすぐ向こうに、大福さんの姿が見えた。険しい顔をして、こちらに向かってくる。

「そんなには強くありませんけれど、それなりには」
 笑顔で応対している間に、大福さんがわたしとからあげさんを睨みつけながら、店の中に吸い込まれていく。
< 14 / 46 >

この作品をシェア

pagetop