ため息のわけを教えてください
 引き継ぎの人が遅刻をして、仕事を上がりが遅くなった。わたしはロッカーから義理クッキーの袋を取って、代わりにからあげさんからもらった、チョコレートの袋を入れる。この店で働いている人たちは、お酒と甘い物、両方好きな人たちばかりだから、これを渡したら、きっと喜ぶだろう。

 ダウンジャケットを羽織って、わたしは店の外に出た。地下鉄の終電も近くなり、飲食店の看板は、灯りを落とし始めている。帰宅を急ぐ人の波に紛れて、駅に向かおうとすると、線路沿いの道に合流する少し手前に、人が立ち止まっているのが見えた。

 大福さんだ。コートと鞄でいつもとシルエットが違ったから、ぱっと見で誰だかわからなかった。仕事の電話をしている。

「どれだけ言われても、無理ですね。システムが落ちる時間は二十二時と決まってますから。話し合いが長引く可能性があると分かっていたなら、事前に何種類かの契約書類を出しておけばいいだけでしょう」

 どうやら取り込んでいるようだ。わたしは頭を下げて彼の前を通り越したが、待っていれば少し話ができるかもしれないと思い直して、足を止めた。振り向くと、思い切り目が合った。大福さんは見てはいけないものを見たかのように、わたしに背を向ける。
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